福島県側の尾瀬国立公園には3ヶ所の宿泊エリアがあります。まだ尾瀬に宿泊したことのない方や久々に訪れる方のために、今回のコラムでは、それぞれのエリアの特徴について山小屋主人の皆さんに語っていただきました。
もちろん気になるコロナ対策についてもご紹介します。
沼山峠登山口から木道の整備された道を1時間弱歩いてたどりつく尾瀬沼地区は、体力にあまり自信のない方でも訪れやすい宿泊エリアです。地区内にはビジターセンターがあり、尾瀬の最新の情報を得ることができます。
尾瀬沼地区の山小屋は2つ、「長蔵小屋」と「尾瀬沼ヒュッテ」。この地区は電気が通っているのでスマホなどのバッテリーが安心して充電できます。
沼山峠と尾瀬の間に広がる湿原。尾瀬ヶ原より規模は小さいのですが、植物の種類は非常に豊富。ミズバショウに始まる花のリレーは、ワタスゲ、ニッコウキスゲ、ヤナギラン、ノアザミなど、季節ごとに訪れる人々を楽しませてくれます。取材に訪れた6月初頭はミズバショウが最盛期を迎えていました。
東北以北の最高峰・燧ヶ岳が控える尾瀬沼。尾瀬沼地区は近年、湖畔の歩道が整備され、沼を一望するテラスが設置されました。穏やかな天気の日はいつまでも雄大な景色の前にたたずんでいたくなります。
「私がいちばん好きなのは朝の尾瀬沼と燧ヶ岳です。朝もやがかかる時は絶景ですね。宿泊されたお客様しか味わえない時間です」と尾瀬沼ヒュッテ支配人の星勇人さん。尾瀬沼ヒュッテは麓の檜枝岐村が運営していることもあり、夕食では檜枝岐特産のイワナや蕎麦、山菜やきのこなどを食材につかった郷土料理「やもーど料理」が食べられるのも魅力とのこと。
見晴地区は尾瀬の中心にありながら、それぞれの入山口からもっとも遠い、言わば折り返し地点のような場所。そのため宿泊に利用される方が多く、6軒の山小屋が集まっています。
広大な尾瀬ヶ原を見渡せるゆえに「見晴」。ある意味もっとも尾瀬らしい場所と言えるでしょうか。尾瀬が初めての方や、尾瀬ヶ原の雄大な景色を眺めたい方には、まずは見晴地区へ滞在することをおすすめします。
遮蔽物のない尾瀬ヶ原の空。宿泊した方だけが味わえる朝夕晩の空はきっと心に残る思い出となるでしょう。
群馬県の鳩待峠からは約9km、福島県の御池や沼山峠からは10km弱ある見晴地区。他の山岳地域と較べて尾瀬は木道が整備されて歩きやすいのですが、それでも大抵の登山者が疲労を実感する距離です。
しかしその疲れを達成感に変えてしまうのが6軒の風格ある山小屋の佇まいです。どの山小屋も「小屋」と呼ぶのはどうかと思うような立派な造りで、周辺を散歩していると避暑地に来たような優雅な気持ちになります。
「福島県の御池や沼山峠からも、群馬県の鳩待峠からも遠くにある見晴地区は、言わば尾瀬の最奥部。秘境的な雰囲気が魅力なのではないか」と話す原の小屋の管理責任者、高妻潤一郎さん。原の小屋では夕食のメニューに檜枝岐産のまいたけを使った釜飯を出していて、宿泊者から高評価を得ているようです。
見晴地区から30分ほど歩いた尾瀬ヶ原と裏燧林道の境目にある赤田代に温泉地区はあります。その名の通り、尾瀬で唯一天然温泉が湧出する希少な宿泊エリアです。
背後の裏燧林道はブナの原生林地帯。深い森の中をとどろくのは只見川の上流にある三条の滝と平滑(ひらなめ)の滝で、温泉地区は滝めぐりの拠点にもなっています。
尾瀬の山小屋はいずれもお風呂がありますが、温泉地区は天然温泉に入浴できます。泉質は赤みがかった硫酸塩泉でどことない鉱物の臭いに自然らしさを感じます。初めて尾瀬に来た宿泊客の女性は山小屋で入浴できることに驚いたようで「過ごしやすくて本当にいいところ」と心から満足された様子でした。
尾瀬ヶ原と尾瀬沼の水を集めて尾瀬の高地を駆け落ちる只見川。その途中に三条の滝と平滑の滝があります。雪解け時の三条の滝は水量日本一とも称される落差100mの直瀑。ごう音が森の中に響き渡ります。
平滑の滝は三条の滝の上流部にあり、長さ500mにも及ぶ一枚岩の花崗岩を滑るように落水していきます。
「こちらには、山へ登った後は温泉に浸かりたいというこだわり派の方が多く来られています。2軒ある山小屋のうち1軒が休業中なので、現在は当小屋だけの営業となりますが、見晴や尾瀬沼と違って入山者が少ない地区なので、静かにのんびりとお過ごし頂けるでしょう」と温泉小屋代表の星公一さん。3年前に併設したテラスが評判良く、風呂上がりに湿原を眺めながらビールを飲んでくつろげるのが人気のようです。
尾瀬の山小屋では昨年からマスク着用や消毒などの新型コロナ感染症対策を実施してきました。
今シーズンの開業ではどの小屋も新たに検温器や衝立て、飛沫防止シートなどを設置。感染対策の足並みを揃えています。「宿泊者を6割程度に制限しています(尾瀬沼ヒュッテ・星勇人さん)」、「とにかく換気を良くすることに努めています(原の小屋・高妻さん)」、「きれいなシーツや枕カバーをヘリで空輸して提供しています(温泉小屋・星公一さん)」など個別の対策を講じている山小屋もあるようです。
このようにコロナ対策については細心の注意を払って山小屋は運営されていますが、入山者の皆さんも尾瀬を訪れる際はご自身の感染対策を徹底し、尾瀬の豊かな自然を満喫してください。