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【労働判例の紹介】平成24(ワ)17239号 賃金等請求事件

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月15日更新

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平成24(ワ)17239号 賃金等請求事件

(東京地裁 平成26年1月8日判決)

◯ 所定労働時間外の労務提供を原則的に禁止する方針を有し、従業員にも周知しても、終業時刻以降に業務に従事することがないようにするための、具体的な措置をとっていないことなどから、残業禁止の方針をもって所定労働時間外の労務提供のすべてが明示する残業禁止の業務指示に反したとはいえず、少なくとも黙示の業務指示があったとみることができるとされた事案

事件の概要

  本件は、被告Y社の従業員であった原告Xが解雇されたことから、XがY社に対し、未払いの所定内賃金及び時間外割増賃金などの支払いと不法行為に基づく損害賠償金の支払いを求めた事件であるが、ここでは、時間外割増賃金請求に係る労働時間の判断についてのみ記載する。

 Y社では入社時に、「勤務時間9:00より17:30まで。営業関係の人たちはAM8:30位までに出社して仕事に就いて下さい。…」などを記載した「社内概成取決め事項の変更」と題する書面(以下、「本件取決事項書」という)を交付していた。
  Y社の営業日報を編綴していたドッチファイルの表紙には、年度ごとに「残業は、原則的には禁止」、「必要なときは、届け出る事、日報にも記録する事」、「18時迄には退社の事」などと印字されたテープが貼られていたが、営業日報は労働時間を記載する様式でなかった。
  Y社の労働時間の管理はタイムカードで行っており、タイムカードの残業欄に打刻がある場合には時間外割増賃金を支払っていた。
  また、Y社代表者も全従業員のタイムカードに目を通しており、Xが所定労働時間を過ぎても事務所内に残っていることについては、直接注意し、あるいは、注意指導することを指示したほか、日常的に早く帰宅するよう注意していた。

判決要旨

 東京地裁は、Xの時間外割増賃金に係る労働時間ついて、以下のとおり判示した。
1 所定労働時間外の業務指示の有無について
 Y社においては、所定労働時間外の労務提供を原則的に禁止する方針を有し、従業員にもそのような方針を周知してはいたものの、Xを含む営業関係の従業員に対しては所定始業時間の午前9時より30分も早い午前8時30分ごろには出社して就業することを求め、他方、所定終業時刻の午後5時30分以降も、少なくとも午後6時ころまでは業務に従事することがあることを想定しており、従業員が午後5時30分以降に業務に従事することがないようにするための具体的な措置をとっていたものでもないのであるから、Y社主張の上記残業禁止の方針をもって、午後9時前あるいは午後5時30分以降の労務提供の全てがY社の明示の残業禁止の業務指示に反したもので、Y社の明示又は黙示の指示による労務提供にあたらないということはできない。かえって、本件取決事項書やドッチファイルに貼付されたテープ等の記載に加え、Y社がタイムカードとは別に従業員の労働時間を管理する格別の制度は設けていないこと等からすれば、午前8時30分以降の所定始業時刻前の労務提供と午後6時以前の所定終業時刻前の労務提供については、少なくとも黙示の業務指示があったものと認めるのが相当である。

2 Xの所定外労働時間について
 タイムカード上の残業時間の全部又は一部において対象従業員が労務を提供していたことを推認することができるか否かは、対象従業員の担当業務の性質や量、対象従業員のタイムカード上の残業時間の利用の実態、使用者の労働時間管理の実態、対象従業員が労務提供に従事することなく職場に早出若しくは滞留すること又はそれらをしないことを基礎づける事実等、タイムカード上の残業時間に対象従業員が労務を提供したこと又はしなかったことを基礎付ける諸般の事情をタイムカードの打刻記録とあわせ考慮した上で決せられるべきものというべきである。
 本件についてこれをみると、Xがタイムカード上の残業時間に見積書の作成や顧客への商品の配達などの業務に従事していたことがあったことは認められるものの、他方、Xの営業日報を含む本件全証拠によっても、Xの担当業務の性質がタイムカード上の残業時間に恒常的に顧客対応を要するなど当該時間に業務に従事するを余儀なくさせる性質のものであることや、Xの担当業務の量が所定労働時間内に終了することが通常困難であるほどの業務量であることは認められないし、Xはタイムカード上の残業時間中にAら同僚とよく雑談をしていたほか、商店街等に外出したことも複数回あったことが認められ、Y社代表者がタイムカード上の退勤時刻が遅いことを注意した際にXは、「家に帰っても特別に用はないし、Aさんと話し込んでしまった、自分の勝手で遅くなっているのです。」などと答えていたことが認められる。
 このような事実に照らすと、Xがタイムカード上の残業時間の全部において労務を提供していたことを推認することはできないというべきであり、タイムカード上の残業時間のうち、午前8時30分から午前9時までの間と午後5時30分から午後6時までの間の限度において、Xが労務提供をしていたものと推認することができるというべきである。

※ 本件判決は確定した。

参考

 参考文献 『労働判例』(産労総合研究所)No.1095(2014.10.1)81~86頁

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