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【労働判例の紹介】平成25(受)2430号 地位確認等反訴請求上告事件

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月15日更新

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平成25(受)2430号 地位確認等反訴請求上告事件

(最高裁二小 平成27年6月8日判決)

◯ 労災保険法に基づく保険給付が行われている労働者の場合であっても、休職期間満了後になされた打切補償による解雇には、労働基準法(以下「法」という。)第19条第1項本文の解雇制限の適用はなく、同項に違反するものではないとされた事案

事件の概要

 Xは、平成9年4月(以下元号を省略する。)から学校法人Y大学(以下「Y」という。)に雇用され、入試実施担当者として資料印刷、会議運営補助、荷物運搬、受験相談会・高校での大学説明会出席、各所管との打ち合わせ及びパソコン操作等の業務に従事していた。
 15年3月、Xは医療機関で頸肩腕症候群(以下「本件疾病」という。)に罹患しているとの診断を受け、同年4月以降欠勤を繰り返すようになった。そして、18年1月からは長期欠勤を余儀なくされ、19年3月にYを退職した。
 その後、19年11月に、本件疾病は15年3月の時点で「業務上の疾病」に当たると中央労基署長により認定されたため、Yは退職日に遡ってXを復職させた。
 しかし、18年1月からの欠勤について、災害補償規程所定の欠勤期間3年間が経過しても就労できない状態が続いたため、YはXを21年1月から2年間の休職に付した。
 23年1月に休職期間が満了し、その後Yが復職を求めたがXは応じなかったため、YはXの復職が困難と判断し、同年10月、災害補償規程所定の打切補償金として1629万円余りを支給した上、同月31日付けで解雇(以下「本件解雇」という。)の意思表示を行った。

 本件は、業務上の疾病により休業し労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている被上告人Xが、上告人Yから打切補償として平均賃金の1200日分相当額の支払いを受けた上でなされた本件解雇につき、Xは、法第81条にいう法第75条の規定によって補償を受ける労働者に該当せず、本件解雇は法第19条第1項ただし書所定の場合に該当するものではなく同項に違反し無効であるなどと主張して、Yに対して労働契約上の地位の確認等を求めた事案である。
 法第19条第1項本文では、業務災害の療養期間中及びその後の30日間の解雇を禁止している。しかし、法第81条により療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合には平均賃金の1200日分を支払うことで、法第19条第1項ただし書により同項本文の解雇制限が除外されることになっている。そして、法第81条の打切補償の対象となる労働者は、「法第75条の規定によって補償を受ける者」、すなわち、「使用者からの災害補償を受ける者」となっており、本件では、「労災保険の給付」が「使用者による災害補償」に該当するかが大きな争点となった。
 1・2審では、Xが受けている労災保険の給付は、労働基準法上の使用者の災害補償義務と異なるものであり、解雇制限除外の要件を満たさないため、法第19条第1項に反し本件解雇は無効であると判断した。

判決要旨

 最高裁は、本件解雇を無効とした原判決を破棄し、次のとおり判示した。

 労災保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであると解するのが相当であり、労災保険給付は、労働基準法上の災害補償に代わるものと言うことができる。よって、使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合とで、法第19条第1項ただし書の適用の有無につき取扱いを異にすべきものとはいいがたい。

 そうすると、労災保険法に基づく療養補償給付を受ける労働者は、法第81条及び第75条の規定によって、補償を受ける労働者に含まれるものとみるのが相当である。

 したがって、このような労働者が療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、法第81条の規定による打切補償の支払いをすることにより、法第19条ただし書にある解雇制限の除外とすることができると解するのが相当である。

 本件についてみると、法第19条第1項ただし書の解雇制限の除外が適用となり、本件解雇は同項に違反するものではないというべきである。

※ 本件は東京高裁へ差し戻された(本件解雇の有効性に関する労働契約法第16条該当性の有無についてさらに審理を尽くさせるため)。

参考

 参考文献 『労働判例』(産労総合研究所)NO.1118(2015.10.15) 18頁~24頁

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