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【労働判例の紹介】平成25(ネ)3095号 損害賠償請求事件

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月15日更新

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平成25(ネ)3095号 損害賠償請求事件

(大阪高裁 平成26年7月18日判決)

◯ 3か月間の育児休業取得を理由として、就業規則の職能給不昇給規定を根拠に翌年度昇給させなかったことは育児介護休業法10条及び公序に反し無効であるとされた事案

事件の概要

 Yは病院、診療所、介護老人保健施設を経営する医療法人であり、XはYが経営する病院に雇用されていた男性看護師である。Yでは、年齢に応じて昇給する本人給と人事評価によって昇給する職能給を従業員に支給していた。このうち職能給については、就業規則中に「昇給については、育児休業中には本人給のみの昇給とする。」との規定があり、労働組合との同様の認識のもと、育児休業を3か月以上取得した者はその翌年度の定期昇給で昇給しないという解釈でこれを運用していた。また、育児休業を3か月以上取得した者は、当年度の人事評価の対象外になるとして、一定の年数継続して基準を満たす評価を受けた者に付与される昇格試験の受験資格を認めなかった。

 本件は、Xが育児休業を取得したところ、Yが3か月間の不就労を理由として翌年度の職能給を昇給させず(以下、「措置1」という。)、昇格試験を受験する機会も与えなかったこと(以下、「措置2」という。)について、育児介護休業法10条に定める不利益取扱いに該当し、公序良俗(民法90条)に反する違法行為であると主張して不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。

 1審では、措置1については、育児介護休業法10条の趣旨からして望ましいものではないにしても公序良俗に反する違法なものとまではいえないとして請求を退け、措置2については、YがXに昇格試験を受験させず昇格の機会を与えなかったことは就業規則上根拠のない取扱いであり不法行為に当たると判示した。

 本件は、これを不服としてXが控訴したものである。

 ここでは、原判決変更があった措置1について記載する。

判決要旨

 大阪高裁は以下のとおり判示し、措置2のみでなく措置1も不法行為に当たるとした。

 措置1について、本件のYにおける昇給規定の運用では、1年のうち4分の1に過ぎない3か月の育児休業により、他の9か月の就労状況いかんに関わらず職能給を昇給させないというものであり、休業期間を超える期間を職能給昇給の審査対象から除外し、休業期間中の不就労の限度を超えて育児休業者に不利益を課すものであるところ、育児休業を私傷病以外の他の欠勤、休暇、休業の取扱いよりも合理的な理由なく不利益に取扱うものである。このような育児休業の取扱いは、人事評価制度の在り方に照らしても合理性を欠き、育児休業を取得する者に無視できない経済的不利益を与えるものであるため、育児介護休業法10条で禁止する不利益取扱いに当たり、かつ、同法が労働者に保障した育児休業取得の権利を抑制し、ひいては同法が労働者に前記権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと言わざるを得ず、公序に反し無効である。

 ※本件は上告された。

参考

 参考文献 『労働判例』(産労総合研究所)No.1104(2015.3.1)71~86頁

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