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【労働判例の紹介】平成24(ワ)12696号 損害賠償請求事件

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月15日更新

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平成24(ワ)12696号 損害賠償請求事件

(東京地裁 平成26年11月4日判決)

◯ 長時間労働及びパワハラと飲食店店長の自殺との間には相当因果関係が認められ、上司であるエリアマネージャーは、当該店長の自殺について不法行為責任を負うとされた事案
◯ 当該飲食店の経営会社には安全配慮義務違反(債務不履行)が認められ、また同社代表取締役は会社法第429条第1項による損害賠償責任(役員等の第三者に対する損害賠償責任)を負うとされた事案

事件の概要

 Aは飲食店の店長として勤務していたが、自殺する前の2年9か月余の間、恒常的に1日当たり12時間30分以上の勤務をし、休日もほとんどない状態であった。
 Yは、Aの上司に当たるエリアマネージャーであったが、Aが仕事のミスをすると、馬鹿だな、使えねえななどといった発言をしたほか、尻、頭及び頬を叩くなどしていた。また、Aが休日であることを知りながら、発注ミス等を理由に度々店舗に呼び出して数時間程度仕事をさせた。仕事以外の場面で日常的に、物を取ってくるなどの使い走りを命じたり、特定の異性との交際に執拗に口出ししたりしていた。さらに、会社本部での朝礼において、全体で教養誌を読み上げた後、指名を受けたAがその感想を言えずにいると、Yは、馬鹿やろう、早く言えよなどと言って、Aを叩いたことがあった。
 Aは、自殺する前日、午前10時から午後11時30分まで店で勤務していたが、その日の午後9時又は10時頃、Yからの電話で、閉店が決まっていた他店の椅子を運ぶ時期を決めて迅速にやるべきこと等を伝えられた。この電話の後、(気力も失せ放心したのか)Aは冷蔵庫にもたれかかったまま、しばらくの間動かず考え込んだ様子であった。
 Aの両親Xは、Yに対して不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償等を求めて提訴した。

判決要旨

 東京地裁は、以下のように判示して原告の請求を認めた。

 
Yは、社会通念上相当と認められる限度を明らかに超える暴言、暴行、嫌がらせ、労働時間外での拘束、Aのプライベートに対する干渉、業務とは関係のない命令等のパワハラを行っていたというべきであり、上記行為によりAに対して生じた損害について不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 

 Aは恒常的に長時間労働を行い、Yからパワハラを受けていたのであり、これらによってAには強度の心理的負担がかかっていたといえる。そして、自殺する直前の、Yの電話での発言がAに対して過度のストレスを与えたことが推認される。これらの事情からすれば、Aは自殺を惹起させ得る精神障害を発症していたものというべきである。

 これらのことから、Aの長時間労働及びYからのパワハラと、Aの自殺との間には相当因果関係があるというべきであり、Yは、Aの長時間労働について把握していたのであるから、パワハラに加えて長時間労働を原因とするAの自殺について不法行為責任を負う。

 また、被告会社は、Aが長時間労働やYのパワハラにより、心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(安全配慮義務)を負っていたにもかかわらず、これを怠っていたものと認められるから、同社には安全配慮義務違反(債務不履行)が認められ、Aの死亡により生じた損害に対して賠償責任を負う。
 被告会社の被用者であるYの不法行為は、被告会社の事業の執行について行われたものであるから、同社には使用者責任も成立する。

 さらに、被告会社の代表取締役は、長時間労働や上司による相当性の範囲を逸脱した指導監督の事実を認識し、又は容易に認識することができたにもかかわらず、何ら有効な対策を採らなかったのであり、故意又は重大な過失によりAに損害を生じさせたものとして、会社法第429条第1項による損害賠償責任を負う。


※本件判決は確定した。

参考

 参考文献 『労働判例』(産労総合研究所)No.1109(2015.5.15)34~49頁

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