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【労働判例の紹介】平成26(ワ)31657号 地位確認請求事件

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月15日更新

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平成26(ワ)31657号 地位確認請求事件

(東京地裁 平成27年5月28日判決)

◯ 最高裁判決(諭旨退職処分の無効)確定後の休職命令による、休職期間満了日の退職が認められた事案

事件の概要

 Y社に勤務していたXは、平成20年5月(以下元号は省略する。)ないし6月頃、職場で同僚から嫌がらせを受けている旨を上司に申告し調査を依頼したが、納得できる結果が得られなかったため、Xはこの問題が解決できない限り出勤できないとし、約40日にわたり欠勤を続けた。
  このため、Y社は、Xに対し無断欠勤を理由として、同年8月28日に、「同年9月30日をもって諭旨退職の懲戒処分とする」旨を通知した。
  これに対し、Xは、21年4月17日、懲戒処分の効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起したところ、24年4月27日、最高裁において、「精神的な不調のため欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、使用者としては、精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後経過を見るなどの対応を取るべきであり、Y社がこのような対応を採ることなく、Xの欠勤を正当な理由がなく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分にしたことは、適切なものとはいい難い。」とし、懲戒処分は無効とされた。
  この最高裁判決により、懲戒処分の無効が確定したことから、Xは、Y社への復職を求め、主治医の「現状では、就労に関しては精神面でも身体面でも問題は無いと思われる。」との診断書を提出した。これに対しY社は、主治医への質問状に対する回答内容やXと産業医との面談結果などから、Xには精神的不調の疑いが有り、会社における標準的な作業環境で就労することには障害があると判断し、25年1月11日付けで休職を命じた。さらに、同年11月14日に「休職期間が満了となる同年11月30日付けでXの退職手続きをとる」旨を通知したことから、XがY社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認などを求めたものである。

判決要旨

 東京地裁は以下のとおり判示し、Xの本件申し立てを棄却した。

  Xが労働契約の債務の本旨に従った履行ができる状態にあったのであれば、Y社が休職命令を発し、Xの労働契約の債務履行を拒絶したことは、会社による受領拒絶となり、休職期間満了による自然退職も認められないことになる。そして、精神的な不調の存在が認められないのであれば、特段の事情がない限り、Xは復職を申し出ることにより、債務の本旨に従った履行を提供したものと認められる。また、仮に精神的な不調の存在により、Xが従前の職場において労務の提供を十分にすることができない状況にあったとしても、労働契約上職種限定のないXが、能力、経験等に照らして配置される現実的可能性がある他の業務について労務提供ができるときは、なお、債務の本旨に従った履行の提供があったと認められる余地がある。
  そこで、本件休職命令が出された25年1月当時におけるXの精神的不調の存否について検討すると、同年4月以降も、ブログにおいて、嫌がらせが実在することを繰り返し主張し、加害者の処分や当時調査に当たった人事担当者をクビにするよう求めるなどの言動が見られ、また、Xの主治医の証言は、妄想性障害の有無を判断するにあたり、重要な本人の周囲の人間から事情聴取を一切行わず、Xに異常所見を認めなかったと判断したもので、所見としては不十分なものであって、Xの精神的不調に関する産業医の所見を覆すに足りるものではない。 
  したがって、休職命令の時点において、Xには妄想性障害の合理的疑いがあり、休職して治療することを必要とする精神的な不調が存在していたというべきである。

  また、産業医は、過去に他の社員から受けた嫌がらせの問題が未解決であるという意見をXが有していることを踏まえると、標準的な作業環境でXが就労することには障害があると考えられる旨の意見を述べており、対人接触を最小限にするため在宅勤務制度を例外的に適用したとしても、社内外の調整や、他の職員との協同作業が必要になることに変わりはなく、Xと業務上接触し、Xから加害者として認識される可能性のある他の社員の精神的健康にも配慮する必要があることから、これらの点を考慮すると精神的不調を訴えるXが、配置転換により、労働契約上の債務の本旨に従った履行を提供することができる職場を社内において見いだすことは困難な状況にあったというべきである。
  さらに、Xが休職期間が満了するまでの間、精神科医による適切な治療を受けていたことを認めるに足りる証拠は無く、妄想性障害がなくなったことが確認され、復職できるような状態になったことを認めることはできない。
  以上のことから、休職命令による休職期間が満了したことにより、Xは自然退職し労働契約は終了したことになる。

  ※本件は控訴された。

参考

 参考文献 『労働経済判例速報』(日本経済団体連合会)No.2254(2015.10.20) 3~14頁

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