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旧三凾座:三凾座の再活用検討委員会

印刷用ページを表示する 掲載日:2013年12月1日更新

三凾座の正面
三凾座の正面。建屋の一番上、看板の上にある四角い部分には、3つの箱(凾)を重ね合わせた木枠の中に「座」の文字が描かれている。
「さはこ座」「みはこ座」をイメージさせる粋な装飾だ

三凾座 〈いわき市〉

温泉と炭鉱の変遷とともに歩んだ娯楽の殿堂が残す往時の面影

 いわき湯本温泉の古称「三凾(みはこ)」を冠したその映画館があるのは、通称「温泉通り」の近く。通りからは建物は見えないが、軽自動車がやっと通れる細い路地を道なりに30mほど進んでいくと、徐々にその姿が現れてくる。初めて目の当たりにする人は、映画村のセットに迷い込んだかのような不思議な感覚に陥るに違いない。「最初に三凾座を目の前にした時、昔の人々の姿や町の姿が時を超えて伝わってきたんです」。そう語るのは「三凾座の再活用検討委員会」の委員長を務める檜山直美さんだ。実は湯本出身ではない檜山さんは三凾座をまったく知らなかった。この町出身のご主人から話を伝え聞くうちに興味が沸き、どうしてもその目で確かめたくなったという。「見てみたら実に味のあるいい建物。『もったいない、何かに使えないか』という思いがわいてきました」。それから温泉街の有志や友人・知人たちに働きかけ、「何かに使う」ための活動が始まる。まず最初に手がけたのは大掃除。閉館してから28年、ほぼ手付かずだった建物は外も中もひどい状態だった。3回に分けて行った掃除で、古いポスターや板看板などが新たに見つかった。ようやく掃除が終わった後には、身内だけの映画鑑賞会を開催。メンバーたちは一様に大感激したという。

 三凾座ができた明治30年代は、常磐炭田の石炭を求める炭鉱会社がいわき市に数多く進出し、湯本地区に炭鉱従事者がどっと流れ込んできた時代だ。芝居小屋としてスタートを切った当時は、娯楽を求める人々の熱気に包まれたに違いない。大正7年以降は映画館として営業し始めるが、集会や演説会場、発表会など、地域の集会所的な役割も果たしていた。そんな歴史を物語るかのように幾度も改修・改造が行われたという。「木造2階建ての建物は、寺社などの大空間を造る時に用いる伝統的な和小屋組の造り。斜材や鉄棒で補強された形跡もあり、手斧や手鋸など当時の職人による手作業の技も随所に見られます。カマボコ状の建物の正面部分は、平らな板状の外壁にモルタルとタイルを張ってあります。これは見事な『看板建築』といわれるものなんです」。夫婦で設計事務所を営む檜山さんが、専門家ならではの視点で教えてくれた。

 委員会のメンバーで「こいと旅館」を営む小井戸英典さんは、小さい頃よくここに通った一人だ。「今から40年ほど前は、町内に映画館が4つありました。三凾座はよく怪獣映画を2?3本立てで上映していたので、子どもには人気がありましたね。常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)のフラガールたちがよく見に来ていた話も地元では有名です」。

 温泉通りから三凾座に入る角には、現在の所有者でもある白石さんの店「菓子工房しら石」がある。白石さんの祖父は駄菓子屋で、三凾座の売店も手がけていた。「まさか自分の持ち物になるとは思ってませんでした。実は取り壊して倉庫か工場でも建てようと思って譲り受けたんですが、時期を逃してしまって…。町おこしに役立てようという話がきたのも何かの縁。できる範囲で協力していきたいですね」。

 檜山さんは傷みの激しい三凾座を、伝統的な建物を研究している筑波大学名誉教授の下山眞司先生に見てもらったことがある。「その時にあと2、3年の寿命と言われました。なんとか生かし、活用していく手だてはないものか、日々模索しています」。委員会では、催しがある時に特別に「みはこ座饅頭」を販売したり、三凾座オリジナルの手ぬぐいを販売したりすることで、その収入を修繕費用に充てる活動も行っている。時が止まったかのような存在の三凾座だが、現実に残された時間はそう長くはない。そのことを知るとその姿もいっそう哀愁を帯びて見えてきた。

館内を案内する檜山さん
館内を案内する檜山さん。かつて役者の楽屋として使われていた舞台裏のスペースにて。ここは映画館専門の時代になってくると、看板描きの作業場として使われていたという。高倉健(?)のイラストが壁板に無造作に貼られ、試し書きの文字などもそのまま残っていた

切符売り場
切符売り場。タイル貼りのレトロな造りが郷愁をそそる。料金表には昭和57年の閉館時の入場料金「大人・学生1,200円」の文字が記されている

「童謡館」に展示されていた映画の宣材写真。
「童謡館」に展示されていた映画の宣材写真。これらは実際に三凾座に貼られていたもので、画鋲の跡が残っている。童謡館は湯本温泉ゆかりの童謡詩人・野口雨情の資料などを収蔵・展示している交流施設。三凾座からゆっくり歩いて3分ほど。近くに来たらぜひ訪ねてみては

「菓子工房しら石」の白石廣司さんと妙子さん
「菓子工房しら石」の白石廣司さんと妙子さん。「私の時代は長谷川一夫や片岡知恵蔵の時代劇が人気でした。やっぱり映画はいいですね」。
三凾座に来たら、温泉街名物の「みそまんじゅう」をこの店で買って帰りたい

遺産の辿った歴史

 三凾座の建築年は明治30年代とされるが、明確な年は分らない。現在の「ホテル斎菊」の前身「備中や」を営んでいた斎菊勝之介氏が、明治後期に当時の湯本村の姿を描いた「三凾湯本勝地名蹟」には、すでに三凾座の姿が記されており、その歴史を物語っている。建物を建てたのは「新瀧旅館」(廃業)の鯨岡さんで、運営は白石熊治さんに任されたという。芝居小屋として建てられた当時、1階は枡席になっていて花道もあった。2階席は座布団敷きの座敷席で、冬は火鉢が置かれていたらしい。芝居のほか、浪曲、薩摩琵琶、吊人形、義太夫、剣舞など、あらゆる演目が行われた娯楽施設だった。しかし、村内の120戸あまりが消失したという明治40年の「湯本の大火」の際には、避難所として多くの人々の命を救う役目も果たしたという。

 映画館としても使えるように改築されたのは大正7年。2代目の館主・白石初太郎さんの代の時だった。町内に電気の配電が開始された頃のことだ。実はそれまでは「三凾座」と書いて「さはこ座」と呼んでいたらしいが、この時を契機に「みはこ座」に変えたという。当時は無声映画だったため、弁士の語りが付いた。場面に合わせたピアノ・バイオリン・三味線などの演奏は、舞台前を掘り下げたスペースで行われた。一方で三凾座には、炭鉱労働者と炭鉱会社間の紛争に巻き込まれたという逸話も残っている。劣悪な労働を強いられていた労働者側がここで演説会を開こうとしたが、会社側は劇場を封鎖して阻止。それに対抗した人々の手によって扉が叩き破られたというものだ。

 昭和20年代には3代目として白石弘さん・すみ子さん夫婦が運営を引き継ぐ。折りしも映画の全盛期を迎え、三凾座もかつてないほどの賑わいを見せた。昭和30年代には、停電時の上映に対応するため自家発電機も設置した。しかし、昭和40年代に入り石炭産業が下火になるとともに客足も減少。昭和51年に常磐炭礦が全面閉山した6年後の昭和57年10月31日に閉館する。その後、白石さん夫婦の親戚でもある「菓子工房しら石」の白石廣司さんが買い取った。平成17年には、地元の文化財の記録・保存活動を行っていた斉藤一夫さんが三凾座を調査し、国の登録有形文化財への申請を提出。平成19年に正式に認定される。しかし、建物は老朽化による雨漏りなどが目立つ状態が続く。たとえ修復したとしても、道路の幅員などが現行の建築基準法には合わないため、個人所有の仮設施設としてのイベントはできても、恒常的に不特定多数を集める施設としての使用はできないという。

三凾座で東京オリンピックの映画が上映された当時の一コマ。
三凾座で東京オリンピックの映画が上映された当時の一コマ。昭和39年に開催されたオリンピックを境に家庭にテレビが一気に普及。徐々に映画産業に陰りが見え始めていった

三凾座の外観。
三凾座の外観。周囲を建物に囲まれているのが分かる。「どうしてこんな場所に建てたのか、今は知ることができません。たまたま空いていた土地に仮設の芝居小屋が立ち、人気を博してそのまま常設の小屋になったのではないかと、私は想像しているんですが」と檜山さん

三凾座の再活用検討委員会

 平成21年、三凾座の建物を再生して利用することを目的に、地元の有志たちにより結成。メンバーは旅館経営者や住民ボランティア、いわき映画研究会の会員など約10名で構成。清掃活動や見学会、関係者への聞き取りや資料の収集などのほか、修繕費用の寄付の呼びかけなどに努めている。映画上映にこだわらず、セミナーやアートイベントなど、多岐にわたる活動を開催予定だ。

仮設の椅子が並ぶ1階客席。
仮設の椅子が並ぶ1階客席。2階の袖見席や客席は後から増築されたものだとか。現在は電気が通っていないため、窓を開けないと館内は真っ暗。「小学生が見学に来た時、ここで何をしたい?と聞いたら『おばけ屋敷!』という声が真っ先に上がりました(笑)」と檜山さん

委員長 檜山直美さん
委員長 檜山直美さん

 いわき市内郷出身。常磐関船町で夫・延雄さんとともに設計事務所を営む傍ら、三凾座の再活用検討委員会の委員長を務める。
「三凾座には、書物や音楽、絵画などの芸術作品と同じような普遍的な魅力があります。それは外観を見るだけでも伝わるはず。ぜひ一度、現地を訪れてみてください。『いわきヘリテージ・ツーリズム協議会』の見学ツアーに申し込んで、常磐炭田の遺産と一緒に見て回るのもおすすめです」

Data
遺産の場所 いわき市常磐湯本町三函
アクセス JR常磐線「湯本駅」より徒歩10分、常磐道「湯本IC」より車で10分
問い合わせ先 いわき商工会議所常磐支所
電話 0246-43-2757
見学 個人所有の建物なので所有者(菓子工房しら石の白石さん)から許可を得れれば見学は随時可能。
菓子工房しら石(電話 0246-42-2711)へ直接申し込みを
※外観の見学は自由

 

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