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第1章 公共施設とうのユニバーサルデザイン 

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第1章 公共施設とうのユニバーサルデザイン
1 基本理念
 公共施設等のユニバーサルデザインを実現するためには、県民や利用者と、施設の設置者や設計者などが、その理念を共有することが重要です。本指針では、ソフト ハードの両面から、県民との連携協働により、人と地域の個性を最大限に発揮し、持続的発展が可能な社会を支える公共施設づくりを目指すという側面から、基本理念として次のものを掲げます。
その1 ともにつくるデザイン
 施設のいのちは、利用者とともに育んでいくものです。また、ユニバーサルデザインは、すべての人のためのデザインであると同時に、すべての人によるデザインでもあります。
 そのため、施設づくりの各段階で、できるだけ多様な手段で、より多くの利用者ニーズを把握し、それをデザインに的確に反映させることが大切です。また、このことが、施設への愛着や誇り、施設を大切にする心を育むことなどにもつながります。
その2 ともに生きるデザイン
 ユニバーサルデザインは、画一的なデザインを目指すものではありません。地域の特性を生かした、地域の人々に永く愛される、多様で魅力あるデザイン、地球環境を守り、人と自然とが共存できるデザイン、そして、人情や風習、歴史文化、地域コミュニティなどを守り育むデザインが必要です。
その3 こころふれあうデザイン
 デザインがより優れたものとなるためには、次のような人のこころが重要です。
 つくる人のこころ
 人権尊重の視点に立ち、常に、様々な利用者像を想定し、使いやすいデザインを生み出す想像力と創造力、そして、関係者の意見を親身になって聴き、利害を適切に調整し、デザインの必要性や妥当性を見極める対話と調整が求められます。
 利用する人のこころ
 施設が持つ本来の機能を最大限に発揮するため、そして、施設だけでは十分とはいえない部分を補完するため、助け合い ゆい の精神、マナー、気配り、気付きなど、利用者一人ひとりのこころのユニバーサルデザインへの理解と協力が不可欠です。
注釈 ゆい 困った人がいれば地域の人みんなで助け合う相互扶助の精神。労働力だけでなく精神的にも助け合う共同体の精神。

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 管理する人のこころ
 利便性の向上をハードのみで解決するのではなく、様々な場面に応じて、施設職員の配置計画を工夫するなど、心の通い合う、わかりやすい、対話型の施設運用も必要です。
その4 さりげないデザイン
 施設のデザインは、周辺の景観と調和し、また、ともに生きるという人権尊重の考えから、こころの障壁を招かないさりげなさと美しさが求められます。
その5 追い続けるデザイン
 ユニバーサルデザインは、はじめから、可能な限り取り組むものですが、創意工夫というものに終わりはなく、すべての人のニーズを満たす完成されたデザインを生み出すことは容易ではありません。
 一方、施設の実際の運用方法や使い勝手などによって、デザインの評価は変わり、必ずしも十分でない場合も想定されます。さらに、社会や価値観が変化すれば、求められるデザインも自ずと異なってきます。
 このため、より多くの人が、少しでも利用しやすいよう、試行錯誤を重ねながら、利用者との合意形成を図り、施設の評価やそれらデータの蓄積を行うとともに、時代のニーズを的確に捉えながら、絶えず見直し・改善を行うという、プロセスと終わりなき取組みが重要です。

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2 基本方針
基本方針の視点 すべての人が、同じ場所で、同じことを、同じようにできる
 ふくしま型ユニバーサルデザインの「キーワード」、「5つの実現手法」、そして、公共施設等のユニバーサルデザインの「5つの基本理念」のもと、ソフト・ハードの両面から、地域性・環境を踏まえ、優れたデザインを創り出すための「5つの基本方針」を次に掲げます。
ユニバーサルデザインによる公共施設等
基本方針1  すべての人が快適に利用できる施設
 1 特定の人が特別扱いされたり、いやな思いをすることのない施設  
 2 右利き、左利きに対応した施設
 3 利用方法や利用状況の説明が効果的に行われる施設
 4 視覚、聴覚、触覚など多様な手段で、必要な情報が十分に提供される施設
 5 補助器具や補助手段を効果的に活用できる施設
 6 繰り返しの動作や、長時間にわたる肉体的負担が伴わない施設
 7 利用場所に接近しやすく、利用する広さが適切な施設
 8 重要なものがよく見えるよう、視線が確保されている施設
 9 使用しようとする全てのものに容易に手が届く施設
 10 少ない労力で効率的に、楽に使える施設
 11 利用者に不自然な姿勢を強いない施設
 12 プライバシーに配慮された施設
 13 天候や季節に左右されない施設
 14 疲れたときに休むことができる施設

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基本方針2  すべての人が簡単に利用できる施設
 1 使い方を直感的に理解できる施設
 2 利用者の理解力や言語能力の違いが問題にならない施設
 3 必要な情報が容易にわかる施設
基本方針3  すべての人が安全に利用できる施設
 1 安全に対する配慮が等しく確保される施設
 2 危険や間違えやすい状況が発生しない施設
 3 使用方法を間違えても重大な結果につながらない施設
 4 注意が必要な操作において、不注意な操作を誘発しない施設
 5 危険なときや使用方法を間違えたときは、注意や警告を発する施設
 6 危険な部分が防護されている施設
 7 四季を通じて安全な施設
 8 災害時や不測の事態が生じても、安全に避難できる施設
基本方針4  さりげなく美しい施設
 1 色や形状などの印象が、利用者にとって抵抗感がなく、受け入れられやすい施設
 2 創意工夫された内容が、目立ちすぎず、さりげなくデザインされている施設
 3 地域の特性を生かし、周辺の景観と調和した施設
 4 自然や環境に配慮し、動植物にやさしい施設
基本方針5  どのような状況にも柔軟に対応できる施設
 1 できる限り同じ手段で利用できる施設
 2 利用者に応じた使い方が選べる施設
 3 利用者のペースに合わせることができる施設
 4 情報がその重要さに応じて提供される施設
 5 補助器具の使用や人的介助に十分な空間を提供できる施設

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施設づくりのプロセス
 ユニバーサルデザインの考え方で公共施設等を整備していくためには、施設づくりの各プロセスにおいて様々な検討を加えていくことが重要です。ここでは、プロセスを7つのステップに区分し、それぞれの段階でチェックすべき事項を整理しています。
  ステップ1 基本構想(計画)
   チェックポイント  施設の機能・性能の把握、ユニバーサルデザインに関する検討開始、意見収集の計画の立案、敷地(地域)の選定の検討
  ステップ2 設計者の選定
   チェックポイント  ユニバーサルデザインに関する設計能力、経験・知識の確認、公正性・透明性・客観性を持った選定方法の検討
  ステップ3 設計
   チェックポイント  施設配置、動線計画等の検討、経済性、環境、景観等の検討、ワークショップ等の実施、5つの基本方針による細部計画、設計完了時点での利用者等への設計内容の説明
  ステップ4 施工
   チェックポイント  利用者の立場に立った施工監理、設計では想定できなかった状況への対応、利用者による施工状況の確認
  ステップ5 施設の評価
   チェックポイント  顧客満足度調査等の実施、定期的な再評価の実施、公共施設等の表彰における、ユニバーサルデザインの視点を重視した審査の実施
  ステップ6 管理・改修
   チェックポイント  施設の機能・性能の維持、外観の保持、安全性の確保、改修計画における利用者ニーズの把握
  ステップ7 データの蓄積  データの整理、分析、データベース化の検討

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ステップ1 基本構想(計画)
 1 求められる機能・性能の把握
    施設に求められる機能や性能は、施設の場所(地域)、用途や規模、利用方法などによって異なります。施設を利用するすべての人の立場に立った構想(計画)を進めることが最も重要です。
 2 検討開始時期
    ユニバーサルデザインの検討は、基本構想(計画)の段階から行うことが重要です。それにより、特別な設備や仕様をできる限り用いない計画とすることが可能となり、初期投資を押さえ、施設の維持管理や将来の改修に要する費用を低減することができます。
 3 意見収集の計画
    いつ、どのような方法で収集し、だれに意見を聴いて、設計に反映させるのかを基本構想の段階で明確にする必要があります。利用者が満足する施設を提供するためには、直接、利用者の意見を収集し、それらを反映していくことが近道です。
    また、施設の管理体制などもこの段階である程度決めておくことが必要です。特に建物や公園などを整備する場合は、受付職員の配置の可否で、利用者の案内方法が異なります。あらかじめ管理者がわかっている場合には、構想、設計等の段階から参加を呼びかけ、また、既存施設を改修する場合も、管理者の意見を取り入れます。
 4 敷地(地域)の選定(建物・公園等)
    ユニバーサルデザインを実現する上で、敷地(地域)の選定はとても重要なことです。利用者のアクセスのしやすさ、地域の気候・気象や敷地の形状、施設の配置などを十分に検討します。特に、敷地の高低差については、造成計画や移動時の垂直移動と密接に関係しますので、注意しましょう。
      また、自然環境や動植物への影響についても十分に調査、検討し、必要に応じて地元の住民や有識者の意見を参考とすることが重要です。
ステップ2 設計者の選定「コンペ方式」や「プロポーザル方式」など
 施設の良否は、設計者の能力や経験に大きく左右され、設計者(チーム)には、ユニバーサルデザインに関する創造力や技術力、経験や知識が求められます。
 設計者の選定にあたっては、多くの設計者の中から、設計者の能力や経験を様々な角度から判定することが望ましく、例えば「コンペ方式」や「プロポーザル方式」などの公正性・透明性・客観性を併せ持った方法により、最も相応しい設計者を選ぶことを検討します。
注釈1  コンペ方式:2人以上の競技者によって建築その他の設計を競技させ、設計者を決める方式。

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ステップ3 設計
 1 基本(概略・予備)設計
    基本構想に基づき、利用者の行動を考えながら、さりげないデザインに心がけ、わかりやすい動線計画、配置計画、適切な高低レベルの設定、ユニバーサルデザインに必要な設備計画、サイン計画等を行い、それに伴う経済性の検討や、自然環境及び景観への配慮について検討します。
    また、ワークショップやアンケートちょうさなどを実施し、施設を利用する人や運用する人の意見を聴き、設計に反映させることが大切です。
 2 実施(詳細)設計
    すべての人が快適に利用できる施設、すべての人が簡単に利用できる施設、すべての人が安全に利用できる施設、さりげなく美しい施設、どのような状況にも柔軟にたいおうできる施設、という5つの基本方針に基づき細部計画をまとめていきます。
    この段階では、安全性の確保、使いやすさなどを確認し、モックアップ実験等の手法も効果的に活用し、施設毎にアイディアを盛り込みながら設計を進めます。
    また、設計が完了した時点で、ワークショップやアンケート調査で出された意見を、どのように設計に反映したかを説明する必要があります。
ステップ4 施工
 様々な意見が反映された施設計画を利用者の立場に立って確認・チェックし、設計段階では想定できなかった状況に迅速に対応していくことが重要です。その場合、ある程度工事が進んだ段階で利用者が施工状況を確認できる機会を設け、意見を聴くことも有効です。
ステップ5 施設の評価
 利用者や管理者の意見を取り入れた場合でも、十分に機能を発揮し、意図したとおりに利用されるかどうかは、施設の実際の運用方法や使い勝手で異なってきます。施設の真価は、利用されることにより評価され、そして変化していくものです。
 このため、運用開始後一定期間(半年から1年程度)が経過した段階で、CS調査を実施し、利用者や管理者の声を聞き、使い勝手などを見直す必要があります。
 さらに、施設を運用していく中で定期的に再評価を行い、新たなニーズを捉えながら、常に利用しやすい施設で有り続ける努力をしていくことが大切です。
注釈1  モックアップ:試作以前の検討用模型や最終模型、実寸模型などの総称。
注釈2  CS調査:[カスタマーズ サティスファクション]顧客満足度調査の略。住民を行政サービスの顧客と捉えた場合、顧客である住民が行政サービスに対してどの程度満足しているかを調査すること。

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ステップ6 管理・改修
 1 管理
    施設の管理は、施設の機能・性能を常時適正な状態に維持することはもとより、外観を美しく保ち、事故・劣化などの発生を予防、予知するとともに、利用状況や経済効率なども含め幅広い観点から行い、利用者が常に使いやすい状態に保つことが重要です。
 2 改修
    施設の改修は、構造やスペースなどの制約があるため、すべてを満足させることは困難ですが、現況を直接確認することができるため、利用者の声を十分に活かすことができるなどのメリットがあります。必要に応じて、関係団体等に協力を求め、管理者が自から擬似体験を行うことで問題点を探すことも重要です。
    改修する箇所は、配置や形状、色彩等をさりげなくデザインし、既存の施設に馴染ませる工夫をし、また、施設を大幅に改修する場合には、全体のサイン計画等を総合的に見直すことも必要です。
ステップ7 データの蓄積
 ワークショップなどで得られた意見やアンケート調査の結果、設計データや施設の運用に関するデータなど、ステップ1から6で蓄積されるデータを整理、分析し、新たに計画される施設や既存施設の改修などに活用していくことが重要です。
 また、必要な時に必要な情報を検索できるようデータベース化を図っていくことも検討し、時代のニーズを的確に捉えながら、絶えず本指針の見直し・改善を図っていきます。
注釈  データベース:膨大な情報をコンピュータに記憶させ、必要な時にデータをすばやく取り出せるシステム。

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4 利用者の参加と施設の評価
その1 利用者の参加の考え方
  施設づくりにおいては、各段階で、多くの利用者からの意見を聞くことが重要です。また、利用者が主体的に参加できる方法を検討することも必要です。
  その際は、地理的条件や施設の利用頻度などによって、利用者の関心の度合いも異なり、参加人数・方法も変わることから、多様な参加手法の中からできるだけ適切な手法を導入することが求められます。
  そして、利用者からの意見を、各段階で的確に反映していくことが重要です。
その2 参加の手法
 ① 情報の提供
  情報を享受することは、利用者の参加の第一歩です。施設づくりのプロセスなどの情報を発信することで、利用者の関心の度合いを高めていくことが必要です。
  また、情報の発信と同時に、アンケートちょうさなどの利用者が簡単に答えられる手法により、関心の低い方の意見を聞き出すことができます。
 (参加手法の例)
  ・情報の受信
  ・アンケート調査への協力など

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 ② 利用者との対話
  なるべく多くの人の意見を聴いた上で、整備条件にあった意見を対話の中から集約しなければなりません。
  しかし、目的、段階や対象者(利用者)によりその手法も異なってきますので、それぞれの目的などにふさわしい手法を採用することが大切です。
 (参加手法の例)
  アイディアの提言、説明会への参加、ワークショップへの参加など
 ③ 利用者との協働による施設づくり
  利用者の参加には、意見を発するだけではなく、よりよい施設にするために自らが実際に活動することも考えられます。維持管理などに利用者の積極的な参加を受け入れ、行政と利用者との協働で進めることが大切になります。また、このような意志をもつ利用者を育てていくことも求められます。
 (参加手法の例)
  うつくしまの道、サポート制度、ガーデニングボランティアなど
 ④ 利用者の意見の反映
 利用者から意見を聞いた後、施設づくりにどのように反映させるのかが重要です。また、すべての意見を反映させればよいというものではなく、様々な与条件のもと「できるもの」と「できないもの」の仕分けをし、その結果を参加者に知らせることが求められます。
その3 参加手法の検討
 利用者参加の段階や利用者の関心の度合いにより、参加の手法は異なります。各段階ですべての人に同じ手法で実施すればよいというものではありません。実施する目的を考え、手法を検討することが重要です。
  参加手法は、次の4つのポイントから検討することが大切です。
   ① 何を聞きたいのか(目的)
   ② いつ聞くのか(時期)
   ③ 誰に聞きたいのか・誰のためのものなのか(対象者)
   ④ どのように反映させるのか(反映方法) 
注釈1 ワークショップ:直訳すると「仕事場」、「工房」などの意味。まちづくりの分野では、参加者がともに討議したり、現場を見たりするなどの共同作業を通して、お互いの考えや立場の違いを学びあいながら提案などをまとめる手法で、そのあつまり(場)。
注釈2  うつくしまの道・サポート制度:道路の一定区間の清掃や緑化について、特定の住民、団体に引き受けてもらう福島県の制度。
注釈3  ガーデニングボランティア:公共空間の草木の手入れに自主的に取り組むこと。

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その4 施設の評価
 ① 施設づくりのプロセスの評価
   アンケートやワークショップなどの利用者参加の手法を用い、利用者の視点から施設づくりのプロセスに対して評価を行うことが必要です。
   また、プロセスを通じて、利用者の参加を取り入れたかどうかが、施設の評価のポイントの一つとなり得ます。
 ② 完成した施設の評価
   実際に使い始めると、新たな課題や改善点が見えてくることがあります。この段階でも利用者の参加を取り入れることで、より具体的な提案も望むことができ、将来の改修計画を立てるうえの貴重なデータが得られます。