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【ろうどうコラム】経済思想のパラダイム変換と労働問題

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月15日更新

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H26.1.22  経済思想のパラダイム変換と労働問題

元労働委員会 公益委員 箱木 禮子      
 

 1989年の「ベルリンの壁」崩壊は、社会主義経済の崩壊と、それを支えてきた経済思想の決定的な衰退をもたらした、という意味で、経済史上、特記すべき出来事でした。いわば、思想の明確なパラダイム変換を歴史が明示した瞬間であったといえます。
 

ドイツの風景

 現代の20代、30代の若者達には想像もできないような厳しい東西対立によって、当時の東西ベルリンを隔てた、コンクリートとレンガで固められた分厚い壁の周辺で多くの人々の命が失われました。しかし、食べる事もままならなくなった社会主義諸国の計画経済の破綻を引き金として、若者を中心とする大規模なデモが東ヨーロッパ諸国で頻発し、それが社会を動かして、結果としてヨーロッパ経済は現在の姿をとることとなりました。私が、社会主義経済体制をとっていた時代のポーランドを訪問した時には、肉屋の前に数百メートルの行列ができ、トイレットペーパー一個手に入れるのも難しかったのに、「ベルリンの壁」崩壊後に再訪問すると、デパートにモノがあふれかえっていました。それほどの激変が当時の東ヨーロッパにもたらされたのでした。

 第二次世界大戦後、日本の大学で教えられてきたマルクス経済学が多くの大学のカリキュラムから消えていったのは、「ベルリンの壁」崩壊よりずっと早く、1970年代からだったと思います。70年代前半に吹き荒れた大学紛争を経て、教育界では静かに思想のパラダイム変換が進んでいったのかもしれません。社会主義経済の思想の根幹を支えたマルクス主義が経済学の表舞台から消え、市場経済をメカニカルに解き明かす経済学が大学での経済学教育の主流となっていくのと時を同じくして、「階級闘争」を標榜してきた労働組合の活動にも変化が起きてきたように思われます。

 過去に新聞紙上をにぎわせた「ストライキ」、「ピケ」、「ロックアウト」などの言葉は今ではほとんど聞かれなくなり、代わって、「職場のいじめ」や非正規雇用の問題が表舞台に上がってきています。労働問題の観点からいえば、組合活動に伴う労使紛争が激減し、代わって、個別的労使紛争が圧倒的多数を占めるようになってきたのです。しかし、組合の活動は必ずしもこの事態に的確に対応してきたとはいえませんでした。こうした事象の裏側には、労働組合の多くが、従来依拠してきた考え方に基づく組合活動から、現代の個別的かつ心の問題までを含んだ問題の対応へとうまく切り替わっていないことがあると思います。組合の組織率の激減がそれを象徴しているように思われます。これに対し、人々の抱える問題が端的に表れているのが、急増し続ける個別的労働紛争でありましょう。

ドイツの風景

 個別的労働紛争の解決に向けた身近な取り組みとしては、主として、労働局が扱うものと労働委員会が扱うものとに分かれますが、それぞれが直面する問題は同じと考えてよいと思います。問題としては、解雇・賃金不払い遅払い・サービス残業・パワハラなどのいじめ、など多岐にわたります。こうした問題を抱えた労働者が公的機関の窓口を訪れると、相談に携わるスタッフは、話をじっくり聞いたり、問題の事業所を訪問して事情聴取や事実確認、背景にある諸事情の調査などを行い、解決に向けた努力をすることになります。労働局や労働委員会で解決を見る事件では、金銭による和解が解決方法としてよく登場します。「お金」の持つ力を感じさせられる事象ですが、解決を図るための一つの知恵でもありましょう。金銭解決以外には、問題を解決するための「約束」や「謝罪」などが取り決められることもありますが、事例は少なく、当事者間に不満が残ったりすることもあるようです。

 最近になって、特に深刻になっているものの中に、職場の「いじめ」や人間関係のもつれから生じる「心の病」の問題があります。深刻な「うつ」のために、リストカットや自殺未遂などを繰り返して解雇され、家族に付き添われて相談に訪れるケースも多く見られます。こうした問題に対処するためには、単に労働法関係の知識や経験だけでなく、精神医学やカウンセリングの専門的知見が必要だと思われますが、労働局にしろ労働委員会にしろ、そこまでの対応は、いまのところ難しいようです。しかし、いずれにせよ、なんらかの対応をしなければならない問題だと思われます。

 世はネット社会となり、若者を中心とする働き盛り世代はコンピュータ時代に育った人々であり、自分が抱える問題をツイッターやフェイスブックにアップして表現することに慣れています。たとえば、しばらく前から、劣悪な労働環境や苛酷な労働を強いる悪質な企業として、「ブラック企業」なる会社の存在もネットで取りざたされています。これからの問題が労働局や労働委員会に持ち込まれた際には、そうしたネット情報の分析や研究も必要になることでしょう。次の東京オリンピックが開催される2020年ごろには、こうした問題への適切な対応が少しでも多くなされていることを期待したいものです。

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