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【ろうどうコラム】労働法教育の推進について

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月15日更新

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H26.11.10  労働法教育の推進について

労働委員会 公益委員 平石 典生     
 

 小学1年生のとき、クラスでテストがあり、答案を先生に提出しようとしたところ、他の児童の答案が目に入り、自分の解答の誤りに気づいた。そこで私は、すぐに解答を訂正しようとしたのであるが、それを見た女子児童から「カンニングだ!」と咎められた。その子の指摘のとおり、私の行動は紛れもない不正行為であった。しかし、当時の私には「カンニング」という言葉の意味はおろか、自分の行動が不正なものだという認識もなかった。きょとんとしていた私に、担任の先生は、テストでは他の児童の答案を見てはいけないのだと優しく教えてくれた。

 しかし、大人の世界では、不正行為に該当するという認識がなかったという弁解は通用しない。例えば、刑法第38条第1項本文は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」と定める一方で、同条第3項本文は「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」と定めており、法律で犯罪行為として禁止されている行為を行った場合、その行為が犯罪だと知らなかったとしても、犯罪は成立するのである。

 したがって、我々国民は、知らないうちに自ら法令に違反する行為をしないように法令をよく知っておく必要がある。犯罪行為に関する刑罰法規については、家庭内の教育や事件報道等を見聞きすることにより、ある程度の知識を身につけることも比較的容易であろう。しかし、現代社会においては、刑罰法規以外にも国民生活の様々な場面において法令による規制が行われている。その中でも重要なものの一つが労働法である。

 我が国では、労働者の多くが会社等に雇用されて働いているが、会社等の使用者と労働者との関係は、労働契約法や労働基準法、労働組合法等の多くの法令により規制されている。そして、そうした法令の内容は時代の変化に応じて常に見直されている。法令の解釈適用についても、次々と重要な判断が裁判所から裁判例として示されている。

 したがって、使用者は、労働関係の法令や裁判例を含めた労働法を十分に理解し、その変化にも常に注意を払っていなければ、知らないうちに違法不正な行為を行ってしまうおそれがある。現代社会では企業のコンプライアンスが厳しく問われており、ひとたび「ブラック企業」とのレッテルを貼られてしまうと、その企業の受ける経営上の不利益は計り知れず、場合によっては存続の危機に陥るおそれもある。

 また、労働者の側も、労働法に関する知識がなければ、使用者から違法不正な処遇を受けても、それが違法不正であることに気づかず、必要な対策を講じることができないまま理由のない不利益に甘んじることになりかねない。

 しかし、国民が労働法を自分で勉強するのは容易ではなく、これを個人の努力に委ねていては、労働法に関する知識の格差が生じるおそれがある。よって、学校教育で労働法に関する基本的な知識を教えるのが望ましい。しかし、現状はどうであろうか。学校によって取り組み状況は様々であろうが、ともすると受験科目の指導を重視し、社会人に必要とされる労働法の基本的な知識についてさえ十分に教えられないのではなかろうか。

 このような事態は我が国の社会全体としての問題であるから、国をあげて労働法に関する教育を推進する必要がある。例えば、食育については食育基本法、環境教育については環境教育促進法、消費者教育については消費者教育推進法といった基本法が制定されているように、労働法の教育についても基本法を制定し、国として労働法に関する教育を推進する態勢を整えることが必要である。

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