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【労働判例の紹介】平成25(ワ)11039号 地位確認等請求事件

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月15日更新

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平成25(ワ)11039号 地位確認等請求事件

(東京地裁 平成26年7月29日判決)

◯ 任期付きの職員の雇用について更新の合理的期待が認められるとしても、再任の可否を決定するに際して専門的裁量的な判断を要する業績審査を行う場合においては、その判断過程に著しく不合理がない限り、雇止めの合理的理由が肯定されると解するのが相当であるとされた事案

◯ 再任不適とした判断過程に合理性を認めるべき事情はなく、著しく不合理であったと認められ、雇い止めには合理的理由を認めることはできないとされた事案

事件の概要

 Xは、Y法人が設置する大学の助教に3年の期間を定めて採用され、これまで2回契約を更新された。

 本件大学においては、「教員の任期に関する規則」が定められており、再任の可否を決定するに際して、研究業績等の事項について業績審査を行うものとされ、このうち研究業績評価については、インパクトファクター2.0以上の雑誌に2報以上発表する(以下「基準1」という。)ほか、その他の論文を2報以上発表する(以下「基準2」という。)こととしていた。なお、特別な事情で条件を満たすことができなかった場合は、本人及び本人が所属する分野の責任者(以下「分野長」という。)の理由書を提出することを再任の基準としていた。

 再任の可否は、本人の自己評価報告書及び分野長が作成する総合的業績評価表をもとに、評価委員会及び教授会の審議を経て最終的に学長によって決定されることになっていたが、分野長による評価が最も重要視されていた。

 Xは3回目の更新に当たり、基準1を満たす論文を発表していなかったが、分野長Dは、Xが上記基準を満たせなかった理由書と再任の基準を満たしているとした内容の総合的業績評価表(以下「業績評価表1」という。)をA学部長及び評価委員会B委員長に提出した。

 A学部長及びB委員長は、Xに対しヒアリングを行い、評価の結果として、引き続き、活躍を期待するとの評価コメントを記載した「平成◯年度の教員個人評価の結果について」と題する書面を送付した。

 その後、A学部長が、分野長Dに対し、Xは非常に危機感に乏しく、改善の見込みが乏しいと判断したとするヒアリング結果を伝えたところ、分野長Dは、その指摘は、分野長D自身が日頃考えていたことと合致していたとして、業績評価表1に代わる総合的業績評価表(以下「業績評価表2」という。)及び理由書2を提出し直した。この理由書2には、Xは研究教官としては著しく適性を欠くと言わざるを得ない。との内容が記載されていた。

 A学部長及びB委員長は、Xに対し、研究業績不足を理由として任期の更新を行わない旨を通知した。

 なお、助教で再任を希望した者33名中、Xを含む16名は本件基準を満たしていなかったが、そのうち13名は任期更新された。

 本件は、Xが雇止めを違法と主張しY法人に対し地位確認等を求めた事案である。

判決要旨

 東京地裁は、次のとおり判示し、雇止めには合理的理由を認めることができないとした。

 Xには更新の合理的期待が認められるのであるが、任期に関する規則において、再任の可否を決定するに際しては業績審査を行うものとされており、原則として更新されるという期待までは認められない。

 再任の業績審査は、大学教員としての適格性の判断という性質上、本件大学の専門的裁量的な判断に委ねざるを得ないものであり、その判断過程に著しく不合理なものがない限り、雇止めの合理的理由が肯定されると解するのが相当である。

 原告(X)の再任不適とした判断過程について、原告(X)のヒアリングの結果で再任不適の評価をしたというA学部長の供述やA学部長からヒアリングの結果を伝えられ、その指摘が自己の考えと同じであったため、業績評価表2及び理由書2を出し直したとするD教授(分野長D)の供述は、疑問を差し挟むことができるのであって、信用性に欠けるというべきである。

 そうすると、被告(Y)が一旦、原告(X)を再任すると判断しながら、再任不適とした判断過程に合理性を認める事情はなく、著しく不合理であったと認められる。

 したがって、本件雇止めには合理的理由を認めることができない。

※本件は、控訴された。

参考

 参考文献 『労働判例』(産労総合研究所)No.1105(2015.3.15)49~56頁

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