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【労働判例の紹介】平成26(ネ)692号 損害賠償請求控訴事件

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月15日更新

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平成26(ネ)692号 損害賠償請求控訴事件

(福岡高裁 平成27年1月29日判決)

◯ HIV感染について、情報の無断共有、就労制限が不法行為に当たるとされた事案

事件の概要

 Y病院に看護師として勤務していたXが、Y病院でA副院長及びB医師の診察を受けたが、精査が必要であるとし、B医師から紹介されたZ病院で受けた血液検査の結果により、HIV陽性と診断され、Z病院のC医師から上記結果(本件情報)がB医師に伝えられた。
  その後、B医師から本件情報を伝達されたA副院長は、D院長及びE看護師長へ伝達したところ、更に、E看護師長はF看護部長とG事務長に本件情報を伝達した。
  これに対し、Xは、本人の同意なく本件情報をA副院長がD院長及びE看護師長等に伝達し、共有したことが、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「法」という。)第23条第1項及び第16条第1項に反し、Xのプライバシーを侵害する不法行為であり、その後、Y病院のA副院長を含む職員が行ったXとの面談において、HIV感染を理由にXの就労を制限したことは、Xの働く権利を侵害する不法行為であるとした。
  また、このことが要因で看護職を諦め退職することとなり、本件面談から2年半が経過した今もなお、精神科を受診し、定期的にカウンセリングを受けながら抗うつ剤等の服用を必要としていることから、使用者であるY病院に対し、民法第715条に基づき、損害賠償金の支払いを求めた事案である。

判決要旨

 第一審の福岡地裁久留米支部は、次のとおり判示した。
  本件情報の共有は、Y病院のB医師から順次、A副院長、D院長等に情報提供されたものであり、同一事業者内における情報提供というべきものであるから、第三者に対する情報提供に該当せず、法第23条第1項には反しない。
  しかし、Y病院のA副院長がD院長、E看護師長に本件情報を伝達し、その後にE看護師長がF看護部長、及びG事務長に本件情報を伝達したことは、院内感染の防止を目的として、Xの就労に関する方針を話し合うために行われたものであり、診療目的の範囲には含まれず、労務管理目的であったと認められ、事前に本人の同意がない限り、法第16条第1項が禁ずる目的外利用に当たる。
  また、Xが勤務を休むことについては、その自由な意思に基づくものでなければならず、面談においてA副院長及びF看護部長がXに勤務を休むように指示したことは、Xの就労を妨げる不法行為となるというべきものである。
  以上により、Y病院はXに対し、115万円余及びこれに対する遅延損害金を支払うことが相当であるとした。

 本件は、控訴され、第二審の福岡高裁は次のとおり判示した。
 Y病院とXとの話し合いにおいて、Y病院は、本件情報共有の事実経過とともに勤務内容を変更して働くことも可能なことを説明していることに加えて、XのHIV感染の状況等を考慮すると、Xの退職やうつ病との間に相当因果関係は認められないとして、原判決の一部を変更し、61万円余及びこれに対する遅延損害金を支払うことが相当であるとした。

※本件は、上告された。

参考

 参考文献 『労働経済判例速報』(日本経済団体連合会)No.2225(2014.12.20)3~18頁
◆ 参考文献 『労働経済判例速報』(日本経済団体連合会)No.2239(2015.5.20)21~24頁

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