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【ろうどうコラム】ブラック労働体験者の独り言

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年7月5日更新

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H29.7.4 ブラック労働体験者の独り言

労働委員会 公益委員 槇 裕康     


 今回初めて、ろうどうコラムの執筆を仰せつかった。

 初めてなので、極めて真面目に「ろうどう」についてのコラムを執筆させていただくこととする。

 

 私は、以前、誰もが知る巨大組織で3年間働いた経験がある。

 そこでの労働は過酷を極めるものであり、私は、朝9時に出勤し、朝3時過ぎに退勤するという地獄のような生活を送っていた。

 最大で、土日出勤も含めた時間外業務が月300時間を超えるような状況であった。もちろん、約9割はサービス残業である。

 当然、睡眠時間も毎日4時間を切るようになった。6時間までは単に睡眠を削るだけだが、5時間を切ると思考力を削り、4時間を切ると命を削るという感覚となる。

 絶望感の中、「辞めたい。」という気持ちが湧くが、忙しすぎて、その先にどうすればよいかということを考えることができない。当然、体調を崩し、一日に何度もトイレで隠れて嘔吐しながら激務をこなしたこともあった。

 当時は「ブラック企業」という言葉はなかったが、まさに「ブラック」な労働環境であった。

 昨年、大手広告会社の若手社員が、過重な時間外労働等により若くして自死を選んだという痛ましいニュースが流れた。「命を絶つくらいなら辞めればいいのに。」という意見も散見された。

 まさに正論である。しかし、そのような意見は、真の激務を経験したことのない人の意見ではないかと思う。過重労働をしていると、思考が停止するのである。「辞めたい」という思いのその先を考えられないのである。周囲からの期待を裏切りたくない気持ちもある。同じように働いている同僚や上司に迷惑をかけたくないという気持ちもある。

 私の場合は、幸か不幸か、体が悲鳴を上げ、長期入院を余儀なくされた。この時にようやく、自分の人生を落ち着いて考え、「近い将来必ず辞める。」という決断をすることができたのである。

 ブラック企業は人の思考力を奪って、労働力を搾取するのである。

 もちろん、資源の乏しい日本においては、若干ブラックなくらいの労働を行わないと、日本の経済が駄目になるという意見もある。私も、このような考え方を必ずしも否定はしない、現に、自ら経営者となっても似たような激務をこなしているという現状もある。

 しかし、過労死ライン80時間は医学的根拠に基づくものであると聞いている。

 仮に日本経済への影響を云々するのであれば、ブラック労働に基づく、精神疾患の発症や自死を含む過労死による貴重な労働力の損失という点にも目を向けるべきであり、当然、経済への悪影響が大きいことにも思いをはせるべきである。

 もちろん、経済への悪影響だけではなく、ブラック労働が様々な社会的弊害を生むことも明らかである。

 このような観点からだけでも、ブラック労働を許容すべきではない。

 

 繰り返しになるが、ブラック労働は思考を停止させる。これを労働者個人で解決することは困難である。ありきたりであるが、政治や行政その他社会全体として取り組まなければ、ブラック労働はなくならないと思う。

 自分自身ブラック労働を経験した身として、この思いは強い。

 幸いにして、県の労働委員会に身を置かせていただいており、その取り組みの一助となることができる立場であるので、今後、違法なブラック労働の撲滅や対応などの啓発等の取り組みができれば幸いである。

 

 だんだん、書いていて、盛り上がって熱くなってきてしまったので、そろそろ終わろうと思う。

 最後に、貴重な若者のやる気や能力を、適切に導くのが我々上の世代の責務だと思うので、微力ながら努力していくことを宣言して、筆を置くことにする。

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